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ある小説のあとがきにこんなようなことが書いてあったのを覚えている。 「小説のおもしろいところは、 個人が正面きって言ったら、何万本もの矢が、 真っ向から飛んでくるようなことを、 作中の誰かの言葉として読んでいる、 語らせてしまうから、 矢のほこさきがそれてしまうというところだ。」 (新潮文庫「この人の閾」保坂和志著 あとがきより) 最近、このことをよく考える。 その小説は、「パッチギ!」と直接的な関係があるものでも何でもないのだけれど、 映画全体に同じようなことが起きていたように思う。 パッチギというのは、ウィキペディアによれば、 朝鮮語で「突き破る、乗り越える」或いは「頭突き」のような意味だそうだ。 1968年の京都を背景に、そこに住む在日朝鮮の高校生と地元の日本人高校生のパッチギな日々の生活を描いたものだ。 背景から推測できるように、全編を通して、 在日の学生と日本の学生は顔を合わせれば殴り合いのケンカをする。 その様子は、どちらも同じくらいメチャクチャだ。 歴史的なこととか、環境とか、そういうこと以前に、 単にケンカっぱやい学生達という感じで、 お互いを口汚く罵り合いながら流血騒ぎを起こしている様は、 不謹慎な言い方かもしれないが、見ていてスッキリした。 彼らの口から吐き出される言葉は、 その多くは感情だけで出されたものだったり、重いものであったり、 うまく処理されていないままのものであったり、 思いもよらぬ独白めいたものであったりもする。 常識的な大人としては決して口にできないようなものなど、さまざまだけれど、どれも、すっ、すっ、と心に入ってきた。 ケンカがある一方で、恋愛もある。 朝鮮高校の女の子を好きになり、彼女の周りにいる人たちとも仲良くなっていく日本人高校生がいる。 彼らに暖かく迎えられていると見える中で、 在日のおじいさんに「おまえに在日の何が分かる?」と戒められるシーンがあった。 日本人がらみの良からぬことが起きた後に、 その怒りが、その場にいた唯一の日本人である彼に向けられてしまうのだ。 これまでの歴史のこと、現状のこと、 1人の高校生に解決できるわけもない大きな問題を 心の底から搾り出すようにして、彼に向けて投げつけてくる。 程度の差こそあれ、同じような経験をしたことのある人はわりと多いのではないかと思う。 言ったほうも言われたほうも、同じくらいに傷つく経験だ。 このシーンはものすごく良かったと思う。 在日の側として、言いたくても言えなくて胸にためたままの人もいるだろうし、 日本人の側として、個人に向けられた言葉のようにどうしても感じてしまう人もいるだろう。 映画の中で、登場人物に言わせてしまったことで、 その気持ちを大勢の人で共有できたように感じた。 個人の気持ちが軽くなった分、前に進める、というような感じだ。 シーンは更に続いて、歴史を分かっていないのかもしれないし、無邪気な思いなのかもしれないが、 日本人の高校生が素直に朝鮮を理解しようとしている気持ちを、ガールフレンドになりつつある朝鮮高校の女の子が橋渡しして在日の人たちに伝えるという、 ものすごく前向きなストーリーになっている。 これも、対岸で顔を向き合わせていたらうまく見えないものが、映画を通して、横から両岸を見ることによって、すっ、と感じられることだったように思う。 複雑な問題へのメッセージ性の強い映画ではあると思うけれど、 ポリティカリー・コレクトとか何とか、そういう次元の話では全くない。 笑いとシリアスな部分の分量のバランスが良く、 問題なり状況なりをきちんと心で受け止めて、心で考えることができる。 基本的にはフィクションであるけれど、 当時、同じように学生だった監督やプロデューサーやさまざまな人たちが経験したこと、見聞きしたこと、 或いは日常生活にあったことが織り込まれているということで、 だから、心に入ってくるものがたくさんあったのだろうと思う。 俳優は皆な日本人だったようだけれど、ハングルのセリフもたくさん入っており、そういうところも良かったと思う。 (2007年2月6日) |
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